キャリアコンサルティングでは、「傾聴」がとても大事です。
キャリアコンサルティングにおける傾聴とは、相談者の話に耳と目と心を傾けて、真摯な姿勢で「聴く」会話の技術です。
「きく」には、3つのものがあると言われます。聞く(hear)、聴く(listen)、訊く(ask)です。
キャリアコンサルティングでは、「聴く」を多く使い、「訊く」も使用します。
上記の3つの「きく」は、どれがいいということはではありません。状況によって使い分ける必要があります。
キャリアコンサルティングでは、相談者の問題を解決するお手伝いをします。
相談者の問題を正確に理解するために、傾聴が必要になります。
相談者の発言を、そのまま受け取るのではなく、相手の言っている意図を把握する必要があります。
それができないと、相談者の解決したい問題点とは違うことに焦点を当て、キャリアコンサルティングをしてしまいます。
それは、時間とお金の無駄です。傾聴は、キャリアコンサルタントにとって必須なスキルです。
傾聴のメリットは、相手との信頼関係の構築・維持が、スムーズにできるようになることです。
傾聴は、キャリアコンサルティングだけで使われるわけではありません。
以下のような話はよく耳にします。
このように、傾聴は、色々な場面で効果が期待できます。
傾聴は、ビジネスの世界でもよく使われます。研修で取り入れている企業も多いでしょう。
逆を言うと、実際に傾聴を実践できている人は少ないということかもしれません。
企業の管理職研修に、「傾聴」のロールプレイを入れている場合があります。
しかし、そのロールプレイを見ていると、管理職が部下役の方より話している時間が多いことがよくあります。
ひどい場合は、傾聴ではなく、説得・説教をする管理職も見受けられます。
今までの癖を直すには時間がかかります。繰り返し実施する必要があります。
傾聴をする上で大切なのは、自分と他人の価値観・信念・考え方は異なるということを認めることです。
それが出来ないと、説教をしたり、自分の考えが正しいことを説得しようとしたりしてしまいます。それは、傾聴が失敗する典型例です。
年代によって、価値観・信念・考え方は大きく違います。「若者の考えを認められない」、「年寄りくさい考えは嫌いだ」というのではダメです。
相手の価値観等を認めることが、傾聴では大切です。
「傾聴は、耳できくのではなく、心できくんだ」。こういう指導された方もいらっしゃると思います。
でも、「心できくって、どうやるの??」という疑問が出てきます。
これは、「心できく」とは、「その発言の表面ツラだけの言葉をそのまま理解するのではなく、その発言の裏にある気持ちを理解しろ」
と言うことだと思います。例えば、相談者が「会社を辞めたい」と言ったからといって、本当に会社を辞めたいのではないことも多いです。
「今の状況(例えば、上司の横暴)をなんとかしてくれ、助けてくれ」という意味かも知れません。
そういう人に、転職支援会社を紹介するのは適切ではありません。
発言の裏に隠れた、意味を理解することが大事です。
傾聴は、相手の話を「よく聞く」こと、これは当然です。しかし、それだけではありません。
具体的には、相手の表情や体の動きから、相手の思っていることを推測することも必要です。
相手が話している時、視線を逸らした、眉間にしわが寄った、笑顔になった、前のめりになって話すようになった、話すスピードが速くなった、声が大きくなった、間が空いた 等々。
こういう相手が発する色々な情報を把握することが、傾聴では重要です。
しかし、これを実践するのは難しいです。何回も何回も、練習をする必要があります。
傾聴をしているときに、相手の言っている用語・言葉がわからないことがあります。キャリアコンサルティング中に、分からない用語・言葉が出てきたらどうしたらいいでしょうか? 「相談者に、用語・言葉の意味を質問するっていうのは、失礼にあたるんじゃないか? 自分の知識が低いと思われるのはいやだな」と思うという方がいらっしゃいます。
筆者としては、それは間違っていると思います。わからない用語・言葉をそのままにしてキャリアコンサルティングをすることは、相談者にとって大変失礼なことだと思います。わからないことがあったら質問をし、疑問点をクリアして進めていかないと、その相談者にとって、よいコンサルティングにならないと思うからです。
キャリアコンサルティング中、相談者が、「最近、こんなことがありました」と、お話しされることがあります。「最近」って、いつだと考えますか?
「二三日前」、「一週間ぐらい前」、「一ヶ月ぐらい前」等々。人それぞれですね。以前、年配の方が、「最近、こんなことがあってさ」と話されたとき、「それは、いつの話ですか?」と質問したところ、「うーん。十年くらい前かな? いや十五年かな?」と答えていました。自分の考えている「最近」と、相手の「最近」では違うことが多々あります。自分の思い込みで、「最近=二三日前」とならないように、曖昧な言葉は、質問をして確認していく必要があります。
筆者は、自分の思い込みを無くすことはできないと思っています。筆者は、思い込みを減らすために、次のことをしています。
①「自分と他人の価値観は異なる」と、常に思う。話を聴くとき、「この人は、どんな価値観を持っているんだろう?」、「この人は、私とはこんな所が違うんだ」と興味を持って聞いています。
②自分は思い込みをすると認める。話を聴くとき、「自分は思い込みをするので、曖昧な言葉は、確認していこう」という気持ちでいます。
最初は、面倒くさいと思いますが、慣れると自然に出来るようになります。これらのことを実践すると、相手と話すのが楽しくなります。
次の様な話を良く耳にします。
その1)「聴」という漢字は、「耳」、「十」、「四」、「心」に分解できる。つまり、「聴くというのは、耳できくより、十四倍の心できくことなんだ」。
その2)「聴」という漢字は、「耳」、「目」、「心」と「+(プラス、たす)」に分解できる。つまり、聴くというのは、「耳」だけでなく、「目」、「心」を「+(プラス、たす)」するんだ。
「聴」という漢字の成り立ちを、筆者は知りません。少なくとも、「+(プラス、たす)」は、漢字ではないです。よく出来た作り話ですね。
以上でコラム「ちょっと前に進むキャリアコンサルティング」は終了です。現在第2弾コラムを準備中ですのでお待ちください。以上
以前、「きく」には、聞く(hear)、聴く(listen)、訊く(ask)の3つがあるということを説明しました。
「聴く」は説明しましたので、今回は、「訊く」について説明します。
3つの「きく」について、復習しておきます。
・聞く(hear):耳に音や声が自然に入ってくる
・聴く(listen):意識して音や声を聞こうとする。相手の発言の意図を理解しようとする目的で耳を傾ける
・訊く(ask):自分から積極的に、相手から情報を得ようとして、質問をする
キャリアコンサルティングでは、「聴く」を多く使い、「訊く」も使います。
上記の3つの「きく」は、どれがいいということはありません。状況によって使い分ける必要があります。
キャリアコンサルティングでは、相談者の問題を解決するお手伝いをします。相談者が相談時に話してくれることの中には、聞いている人にとっては、分からない単語・状況・話等が多くでてきます。例えば、それはいつの事なのか、それは事実なのか感想なのかが分からないことがあります。「最近、○○という事があった」と相談者が話したとき、「最近」とは、いつなのかを明確にする必要があります。そのために、訊く(=質問をする)必要があります。
相談者は、自分のつらいことや不満を話したがります。それは、自然なことですが、それだけでは、問題解決に繋がらないことが多いです。相談者の問題の全体像を正確に把握するためには、必要な情報を訊く(=質問する)必要があります。
キャリアコンサルティングのロールプレイ中に、キャリアコンサルタント役の方が、「何を訊いたらいいのか、分からなくなった」と発言することがあります。相談者の問題解決に繋がる情報を得るために、相談者に訊くのです。しかし、自分の興味のあることばかりを質問してしまうことはありがちです。例えば、転職活動をしている相談者のキャリアコンサルティング中に、「パートナーは、いるの?」、「御社のこれからの主力商品は何?」というような質問です。何を質問していいのか分からなくなったり、間が空くのが怖くなったりしたとき、興味のある質問や思いつきの質問をしてしまいます。
注)もちろん、キャリアコンサルティングの展開の中で、これらの質問が必要になることもあります。
質問をするときには、常に、「この質問は、問題解決に繋がるのか?」、「自分の興味だけで質問していないか?」を、自分に問いかける必要があります。質問は、相談者の問題解決のためにするのだということを、常に意識してください。
キャリアコンサルティング中に、質問は必要です。しかし、「質問攻め」や「問い詰め」にならないように、注意が必要です。詰問のような状態になると、相談者は、とてもいやな気持ちになります。刑事ドラマの取り調べのような状態では、信頼関係が維持できないでしょう。
キャリアコンサルタントの方で、準備をしっかり行い、膨大な質問のリストを作ってくる人がいます。その質問リストを、片っ端から訊いていくというスタイルです。しかし、このようなチェックリスト攻撃をされると、相談者は疲弊し、信頼関係は崩れます。質問リストを作ったのならば、状況によって、質問を取捨選択する必要があります。
質問は、「閉じた質問(クローズドクエスチョン)」と「開かれた質問(オープンクエスチョン)」に分けることが出来ます。
1)閉じた質問とは、「はい」、「いいえ」のように答えることが出来る質問です。
閉じた質問例)「退職したのですか?」、「異動したいのですか?」
閉じた質問は、答えやすいのですが、連発するとチェックリスト攻撃になるので、注意が必要です。
2)開かれた質問は、「はい」、「いいえ」のように答えることが出来ない質問です。
開かれた質問例)「楽しかったことはなんですか?」、「どんな仕事をしたいですか?」
開かれた質問は、相談者に、相談者の考え・思いを話していただける事が出来ます。しかし、キャリアコンサルティングの早い段階で「あなたの人生のゴールは、どのようなものですか?」というような難しい質問をされると、相談者は困惑してしまい、話せなくなってしまいます。
キャリアコンサルティングでは、最初に答えやすい閉じた質問をしていき、その後、開かれた質問をして、相談者の考え・価値観を把握していく事がよくあります。そのバランスは、練習を通して養っていくしかありません。
キャリアコンサルティングを始めた頃は、「あなたは、AとBとでは、Aの方がいいですよね?」という質問をしてしまうことがあります。これは、キャリアコンサルタントの価値観で、相談者を「Aの方へ」ミスリードしてしまいかねません。
この場合なら、「あなたは、AとBとでは、どちらがいいですか?」という閉じた質問をし、その後、「その理由をお話いただけませんか?」と開いた質問をするのがよいでしょう。
質問をするにも順番があります。信頼関係が作れていない段階では、相談者が答えやすい質問、例えば、「どのようなお仕事をしていらっしゃるのですか?」のようなことを訊くのが良いでしょう。最初から、「借金はあるのですか? いくらですか? 返済はできそうですか?」という質問をされたら、相談者は答えたくないでしょう。このようなセンシティブな質問は、信頼関係が出来てからした方がいいです。仮に、相談者とキャリアコンサルタントの間に、信頼関係ができたとしても、「借金はあるのですか?」というダイレクトな質問は、なるべく避けた方がよいでしょう。「マネープランは考えていますか?」のような質問の方が、相談者は答えやすくなるでしょう。
キャリアコンサルティングを進める上では、相談者に聞きづらい質問をする必要がある場合もあります。「この質問をしたら、相談者は困るかな? でも、訊かないわけにはいかないし。。」と、考えることは、よくあります。そういう時には、「差し支えなければ、ご回答ください。」「問題なければ、お答えください」のように、一言、付け加えるのがよいでしょう。「差し支えあれば」「問題があれば、」回答しなくてもいいというメッセージを、相談者に伝えることが重要です。
以前も説明しましたが、重要なことなので再度、説明します。
キャリアコンサルティング中に、分からない用語・言葉が出てきたらどうしたらいいでしょうか? 「相談者に、用語・言葉の意味を質問するっていうのは、失礼にあたるんじゃないか? 自分の知識が低いと思われるのはいやだな」と思うという方がいらっしゃいます。筆者としては、それは間違っていると思います。わからない用語・言葉をそのままにしてキャリアコンサルティングをすることは、相談者にとって大変失礼なことだと思います。わからないことがあったら質問をし、疑問点をクリアして進めていかないと、その相談者にとって、よいコンサルティングにならないと思うからです。
チェックリスト攻撃のように、質問を連発すると、相談者は疲弊したり、キャリアコンサルタントに対しての信頼感が下がったりします。これは、デメリットです。
また、相談者が次の様に思ってしまうことがあれば、それはデメリットになります。「こんなに多くの質問をしてくれ、きちんと答えたのだから、キャリアコンサルタントが、私はどうしたらいいかの正解をだしてくれるんだろう。私は、その通りにすればいいんだ」
キャリアコンサルタントは、相談者の問題の解決をお手伝いするのであり、正解をだすのではありません。何をするのか、どれを選択するのかは、相談者自身が決めることです。相談者がキャリアコンサルタントに依存しすぎないようにしなければいけません。
キャリアコンサルタントは、飲み会に誘われることが多いと、個人的に思っています。これは、キャリアコンサルタントが、相手の話を聴いて、それを受けての質問もするからだと思っています。このようなコミュニケーションがとれるので、飲み会に参加した人たちが、「楽しかった」と言ってくれる。そして、また、飲み会に誘われるという流れに繋がると感じています。もちろん、飲み会でなくて、お茶会も同じです。キャリアコンサルタント仲間の交流は、とても楽しいです。
以上でコラム「ちょっと前に進むキャリアコンサルティング第2弾」は終了です。現在第3弾コラムを準備中ですのでお待ちください。以上
ここまで、「聴く」と「訊く」について、説明しました。今回は、「話す」の一つである「伝え返し」について説明します。
伝え返しとは、相談者が話した内容を相談者の言葉を使って、相談者に話すことです。このことにより、相談者に、「相談者の話・悩みを聞いていますよ。正しく理解していますよ」ということを伝えることになります。
相談者は、キャリアコンサルタントが、「しっかり聞いてくれている」と感じると、さらに色々なことを話してくれたり、本音で語ってくれるようになったりします。すると、相談者の真の悩みが分かってきます。
「伝え返し」を正しく行うことで、相談者とキャリアコンサルタントの間に、信頼関係が築かれるのです。
キャリアコンサルタントが、相談者の発言、「伝え返し」をすることにより、相談者は、「あ、自分は、こんな言葉を使っていたんだ。自分はこんな気持ちだったんだ」ということに気づくことがあります。これは、相談者の内省(ないせい)を促し、自己理解を深めることになります。
例をあげます。以下、相談者をCL、キャリアコンサルタントをCCと表します。
CL「○○という仕事は、やりたくない」
CC「やりたくない」
CL「やりたくない。。。うーん。やりたくないというより、苦手なのかな。。。」
CC「苦手」
CL「苦手。。苦手だから、やりたくないのかな。失敗して、恥をかきたくないから、やりたくないのかな。。」
・・・・・
このように、相談者は、内省を始めていきます。そして、自己理解が深まっていくのです。「伝え返し」をすることで、相談者が自分の気持ちを整理していくことに繋がります。
以前、ある方のキャリアコンサルティングのロールプレイを見ました。そのロールプレイの一部を紹介します。
CL「○○が、つらいんです」
CC「○○が、嫌なんですね」
CL「○○が、つらいんです」
CC「○○を、避けたいのですね」
CL「つらいんです!」
CC「きらいなんですね」
CL「つらいんです!!!」
CC「考えたくないんですね」
CL「!!!!!」
このCC役の方は、「伝え返しは、CLが使った言葉と違う言葉で返すこと」と指導を受けたそうです。なんという指導を受けたのでしょう!! 怒りを超して、あきれてしまいました。
CL役の方は、ロールプレイのフィードバック時に、「言っていることを、ちっとも理解してくれようとしないCCだった。相談するのが嫌になった」と言っていました。そりゃ、そうでしょうね。
この例からも分かるように、「相談者が話した内容を相談者の言葉を使って、相談者に話す」ことが大事なのです。言葉を換えすぎてしまうと、信頼関係が作れません。
「伝え返し」の事を、「オウム返し」という方がいらっしゃいます。筆者は、「オウム返し」という言葉は使いません。
「オウム返し」は、相手が言った言葉をそのまま繰り返すことです。鳥の鸚鵡(オウム)が、意味も分からずに、人の言葉を繰り返すのと同じですね。相手の話を単に、(機械的に)繰り返すだけでは、信頼関係を作ることは出来ません。
「伝え返し」は、相談者の発言の裏側にある感情・考えを理解し、その発言の中で、相談者が重要と思っていそうな所、キャリアコンサルタントに伝えたいと思っていそうな所を、相談者が話した言葉を使って、相談者に伝えることです。
「伝え返し」を実施することで、相談者に「あなたの気持ちが分かっているよ」というメッセージを伝えることになります。「伝え返し」は、相談者との信頼関係を構築するために必須です。
「伝え返し」の対象は、「事柄・事実」と「感情」があります。
1) 「事柄・事実」の「伝え返し」(内容の反映)
これは相談者が話した出来事・状況・情報等を「伝え返す」ことです。相談者の置かれている環境・状況を確認するために使います。
例)
CL:「今までに、3回転職しました。これ以上転職すると、採用をしてくれないのではないかと不安です。」
CC:「3回転職をしたのですね。」
2) 「感情」の「伝え返し」(感情の反映)
これは相談者の感情・気持ち等を「伝え返す」ことです。相談者の感情・気持ちをキャリアコンサルタントが受け止めようとしていることを伝えるために使います。
例)
CL:「今までに、3回転職しました。これ以上転職すると、採用してくれないのではと不安です。」
CC:「採用してくれないのではと不安なのですね」
キャリアコンサルティングでは、「事柄・事実」の「伝え返し」で現状・状況確認をし、そこで相談者がどのような気持ちでいるかを、「感情」の「伝え返し」で確認していくことが多いです。
相談者が発言しているときに、「伝え返し」をしてしまい、相談者の発言の邪魔になってしまう気がする。どうすればいいのか? という質問を良く受けます。
筆者は、まずは、「単語」だけを伝え返してくださいと、指導しています。発言全部を返そうとすると、相談者の発言とぶつかってしまいますよね。
「伝え返し」は、相談者に、「あなたの発言をしっかり聞いているよ、キーワードを抑えているよ」というメッセージが伝わればいいのです。ですから、まずは、「単語」だけを返せるようになってください。